最新の頁   »   新芸術派(石川信雄・斎藤史・前川佐美雄)  »  前川佐美雄『植物祭』初版本の誤植(2)
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 あまり引用されたり言及されたりすることがないようだが、『植物祭』には増補改訂版(靖文社、1947年6月)がある。初版から17年後に、版元を替えて刊行したものである。砂子屋書房版『前川佐美雄全集』第2巻(2005年4月)には初版との異同が逐一記されていて、ありがたい。

 さて、この増補改訂版をみると、前の記事で取り上げた③の歌は次のように改められている。
 


(初)今の世に地球を掘とるいふことば何んとかなしきその言葉なる
 ↓
(改)今の世に地球を掘るといふ語(ご)あり何んとかなしきその言葉なる



 下線部が改められた箇所である。(a)「掘とる」が「掘ると」になり、(b)「ことば」が「語あり」になっている。

 後年の筑摩書房版『現代短歌全集』や小沢書店版『前川佐美雄全集』、砂子屋書房版『前川佐美雄全集』の『植物祭』は初版本を底本としつつ、(a)については「掘ると」を採り、(b)については「ことば」のままとした。つまり、(a)は初版の誤植を正した(=本来初版のときからそうあるべきだった本文に戻した)ものと判断し、(b)は初版後の改稿と判断したわけである。

 では、①②の歌は、増補改訂版ではどのようになっていたか。
 


(初)つかれゐるわれの頭のなかに映り太陽のかげかたちのみちの黒さ
 ↓
(改)疲れゐるわれの頭(あたま)のなかに映り太陽のかげかたちのみの黒さ


(初)薔薇ばなに顔をうづめて泣いてゐしむかしわれがさびしがられる
 ↓
(改)薔薇ばなに顔をうづめて泣いてゐし(むかし)のわれがさびしがられる



 ①は「かたちのみちの黒さ」が「かたちのみの黒さ」へ。「疲れている私の頭のなかに映って、太陽の影はただ丸い形だけが黒々としている」といったところだろうか。表現がなお足りない印象だが、それでも意味は通るようになった。

 ②は「むかしわれが」が「昔のわれが」へ。第四句が7音になって拍子が整うとともに、意味もより明瞭になった。「昔のわれ」が今の側から「さびしがられる」という関係が見えるようになったのである。

 ところが、のちの全集本は、この①②については初版の本文のままとし、増補改訂版の本文を採らなかった。全集本は「かたちのみの黒さ」も「昔のわれが」も初版後の改稿と判断したか。少なくとも、初版の誤植を正したものと判断するには至らなかった、ということだろう。

 しかし、これらの全集本の判断には修正の余地がある。①②ともに初版に誤植があって増補改訂版でそれを正した、ということを裏付ける資料が存在するからである。


(続く)

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