こいさんと呼ばれてお前は町を行く黄色い帯をひらひらさせて
阪上民江(『塔』2014年1月号より)
「こいさん」というのは、大阪の船場で「良家の末の娘を敬愛して呼ぶ語」(広辞苑第五版)。今はもう使わないだろう。この一語で回想詠の気分が出る。
現代のいわゆる標準語しか話せない私が「こいさん」を知っているのは、『細雪』の登場人物の一人がそう呼ばれていたからである。いつだったか、生まれも育ちも大阪の母にこの言葉を知っているかどうか尋ねたら、自分で使ったことはないが聞いたことはあるという。実際に発音してもらったところ、「い」の音を高くするのだった。標準語の「おねえさん」の「え」を除くと、音の高低がほぼ同じになるようだ。
歌の中に方言が入る場合、読者はたいていその発音の仕方を再現できない。したがって、自己流でそれらしく読むことになる。しかし、「こいさん」ぐらいは教えてもらえばなんとかなるので、元々のイントネーションで読みたい。
母は1940年代の生まれ。掲出歌の作者はもう少し年長の方か。
(2014.1.26 記)
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