国立国会図書館や日本近代文学館に依頼すればコピーを郵送してくれるような本は、稀覯本ではない。私が稀覯本と思うのは、どこの図書館・文学館にもなさそうな本、どの古書店も扱ってなさそうな本であり、かつ文学史家もまた見ていなさそうなものである。
昭和の短歌の分野では、新興芸術派の雑誌にそのような稀覯本が多い。
芸術派というのは今あまり使われない呼び名だが、昭和初期に写実(→アララギ)では表現しきれない感情を表現しようとしつつ、自由律(→新短歌)は否定して五句三十一音の定型律を保持し、政治的価値(→無産派)よりも芸術的価値を重視した一派を指す。代表歌人は筏井嘉一、前川佐美雄、石川信雄、斎藤史、加藤克巳。いずれも短歌史に名を残している人たちなので、この一派の雑誌は資料としての価値が高い。ところが、アララギはもちろん、無産派や新短歌の雑誌に比べても発行部数が少なかったのか、図書館や文学館には所蔵のないものばかりである。
その一つに『エスプリ』がある。芸術派による最初の雑誌と目されるものだ。木俣修『昭和短歌史』(明治書院、1964年)によれば、筏井嘉一が1930年4月に創刊し、2号まで出して廃刊になったという。
木俣自身、当時の芸術派の一人であるから、『エスプリ』についてもよく知っていたはずだ。『昭和短歌史』の情報は信頼できる。ただ、不思議なことに、この『昭和短歌史』には、『エスプリ』の具体的な内容の紹介が全然ない。創刊の辞のような文章の引用もなければ、歌の引用もないのである。おそらく、同書執筆中の木俣の机上には、『エスプリ』の原本がなかったのだろう。
私はこの雑誌を見てみたいと思って、全国の図書館・文学館の所蔵を調べ、古書店も相当探したが、見つからない。まさしく稀覯本である。
誰かお持ちの方、おられませんか?
昭和の短歌の分野では、新興芸術派の雑誌にそのような稀覯本が多い。
芸術派というのは今あまり使われない呼び名だが、昭和初期に写実(→アララギ)では表現しきれない感情を表現しようとしつつ、自由律(→新短歌)は否定して五句三十一音の定型律を保持し、政治的価値(→無産派)よりも芸術的価値を重視した一派を指す。代表歌人は筏井嘉一、前川佐美雄、石川信雄、斎藤史、加藤克巳。いずれも短歌史に名を残している人たちなので、この一派の雑誌は資料としての価値が高い。ところが、アララギはもちろん、無産派や新短歌の雑誌に比べても発行部数が少なかったのか、図書館や文学館には所蔵のないものばかりである。
その一つに『エスプリ』がある。芸術派による最初の雑誌と目されるものだ。木俣修『昭和短歌史』(明治書院、1964年)によれば、筏井嘉一が1930年4月に創刊し、2号まで出して廃刊になったという。
木俣自身、当時の芸術派の一人であるから、『エスプリ』についてもよく知っていたはずだ。『昭和短歌史』の情報は信頼できる。ただ、不思議なことに、この『昭和短歌史』には、『エスプリ』の具体的な内容の紹介が全然ない。創刊の辞のような文章の引用もなければ、歌の引用もないのである。おそらく、同書執筆中の木俣の机上には、『エスプリ』の原本がなかったのだろう。
私はこの雑誌を見てみたいと思って、全国の図書館・文学館の所蔵を調べ、古書店も相当探したが、見つからない。まさしく稀覯本である。
誰かお持ちの方、おられませんか?
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もしかしたら、なんですが、詩歌文学館の未整理の資料の中にあるんじゃないだろうか、と思ったりします。中野嘉一さんの蔵書が一括寄贈されたのち、整理が手つかずだとか聞いた覚えがありますが、どうなんでしょう? もう整理されたのかな? 中西さん何かご存じですか?
24
わー黒瀬さん、お久しぶりです。こんな外れの外れのブログに顔を出してくださって恐縮です。
中野嘉一さんの蔵書が一括寄贈ですか、知りませんでした。それはすごい、すごすぎますね。いろいろ珍しい本がありそうです。とくにモダニズム系。たぶんまだ閲覧できる状態にはなっていないのでしょう。私に整理させてくれないかな。もちろん無給で。
森岡貞香さんの遺品も寄贈されているようです。これも未整理。このなかには葛原妙子の自筆ノートなども混じっているはずです。詩歌文学館、がんばってほしいです。
中野嘉一さんの蔵書が一括寄贈ですか、知りませんでした。それはすごい、すごすぎますね。いろいろ珍しい本がありそうです。とくにモダニズム系。たぶんまだ閲覧できる状態にはなっていないのでしょう。私に整理させてくれないかな。もちろん無給で。
森岡貞香さんの遺品も寄贈されているようです。これも未整理。このなかには葛原妙子の自筆ノートなども混じっているはずです。詩歌文学館、がんばってほしいです。
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