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 2 事実認定

 当該選者に〈厳重に注意〉したとの結果報告は明快だ。当然、その処分の前提として何らかの事実認定をしたことになる。つまり、〈2013年頃から2019年頃にかけて、歌会の前後の茶話会や飲み会で〉同選者がAに対し手を握ったり体を密着させたりし、Aはそのことを苦痛に感じた、ということを未来短歌会は事実と認めたのだろう。ただし、〈ご相談者のご要望通り対応することが最善との結論になった〉という言い方は幾分曖昧に感じられる。企業等のハラスメント対応の定型文なのかどうか、私には分からない。

 なお、2019年にAが中島のブログを通して告発した#MeTooは茶話会や飲み会の件どころではない、より重大な人権侵害を含む事柄だった。Aが未来短歌会のハラスメント委員会に相談した際に、そういった事柄を全く伝えなかったとは考えにくい。ところが、中島の昨年10月20日付ブログ記事を見る限り、今回の未来短歌会の連絡内容にはそのことへの言及がない。

 ハラスメント委員会としては事実認定に含めることができなかったが、一方でそれを言明することも避けたということだろう。同委員会が苦慮したところだと想像する。ただ、本来なら、そのような事実認定の仕方はAにとって受け入れがたいものだったはずだ。また、事実でないとも明言されなかったことは、当該選者の側から見ても満足とはいかないところだろう。

 より重大な事柄について明確な判断を示すことができなかったのはなぜなのか、どこでどうすれば事実か否かを推断できたのか。今後のハラスメント対応に課題を残したと言える。


 3 ハラスメントに対する処分

 引用文の通り、当該選者への処分は厳重注意と謝罪勧告である。ハラスメント委員長により〈理事会の席上、当該選者に対し、自らの立場を自覚し行為を猛省するとともに、可能ならば被害者と思われる人物に謝罪をするよう(略)注意および謝罪勧告〉がなされたという。

 まず、厳重注意についてこの処分が未来短歌会の会則等に拠ったものかどうか、私は知らない。いずれにせよ、最も重い処分ではないのだろう。これは人前で〈手を握ったり体を密着させたり〉という、事実認定できた事柄だけに対しての処分であって、より重大な人権侵害に対する処分ではないのだ。

 一点、どうしても気になってしまうのは、被害者が去って加害者が残る現状だ。ここは何とかならないものだろうか。

 加藤治郎のブログ記事、および〈2019年頃にかけて〉という被害の事実認定から推測するに、Aは#MeToo告発と同じ2019年に退会したようだ。ハラスメントから逃れるために退会したと推定するほかあるまい。未来短歌会は数百名の会員を抱える巨大結社で、各選者の選歌欄はそれぞれ独立結社のようだと聞くが、だからといって別の選歌欄に移れば済むという問題でもないだろう。未来短歌会に復帰したいとの希望は、A自身にはもうないのかもしれない。

 それにしても、だ。Aの復帰がいつの日か可能になるような環境作りをもっと進められないものだろうか。ハラスメント委員長による〈ハラスメント防止の取組みの徹底・強化〉の要請に呼応し、各選者らが自身の選歌欄の安全安心を会員のために保証するとか、会員有志が連帯して反ハラスメントの意志を確認するとか。

 ちなみに、私が所属するのは代表兼選者一名、会員二十数名の弱小結社だが、仮に私たちの選者に同様の問題が起きでもしたらその求心力はたちまち失われ、結社自体が崩壊すると予想する。小結社はそうなり、大結社はそうならないとしたら、それはなぜなのかと思う。

 次に、謝罪勧告についてハラスメント委員会はAの意思を確認した上でこの勧告を出したのだろうか。もしそうでなかったとしたら、この勧告は問題だ。謝ると言われても、ハラスメントの被害者が加害者との対面を望むとは限らない。被害者はしばしば加害者に強い恐怖を感じているからだ。この勧告が新たなトラブルを生むことにならないか、危惧される。

 なお、ハラスメント委員会は謝罪すべき相手を〈被害者と思われる人物〉とし、処分の対象者や他の理事会出席者に対してAの名を伏せた。Aの安全とプライバシーを守る配慮だろう。あるいは、これはA本人の要望に沿った対応だったかもしれない。ハラスメントの被害者が報復を恐れて匿名を希望することは十分理解できる。

 ただ、同委員会のこの判断には議論の余地もあると思われる。一般論としては、告発された側もまた抗弁する権利を持つ。誰が告発したのか知らされないままでは、抗弁が困難になる可能性も否定できない。

 それについては、ハラスメント委員会も慎重に検討したにちがいない。事実認定した加害行為の程度、それに対する処分の軽重をも勘案した上で、Aの名を伏せることも可能だと判断したのだろう。その判断を私も支持したい。ただし、もしもっと重大な人権侵害について、例えば除名といった重い処分を科すとしたら、そのときは被害者の名を出すか伏せるかをあらためて検討する必要があると思う。


(2024.1.16 記 続く)

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