最新の頁   »   短歌一般  »  高良真実「預言は腹に苦い」について(1)
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 前田宏の時評を批判する高良真実の note記事を見付けた。当該の時評に対する私の感想等は前回の記事の通りで、前田の主張に批判が集まるのはやむを得ないと私も思う。ただし、高良の記事の方も、これはこれで問題の多い文章だと思った。正しい目的のためには何をやってもいいと高良は思っているのかもしれない。しかしもちろん、そんなことはないのである。前田が、

 歌壇におけるセクハラがパワハラと結びつきやすく、ジェンダー・ハラスメントとも関係が強いことは判るが、反セクハラが定着しないうちに矛先を広げるのは、セクハラ軽視とも見えてしまう。


と言うのに対して、高良は、

 偽善者よ、このようにセクハラに反対することは知っているのに、どうしてすべてのハラスメントに反対することを知らないのか(cf.ルカ12:56 )。


と記している。反セクハラから反パワハラへの性急な戦線拡大に前田が反対していることについても、私見は前の記事に書いた。おそらく、高良と私の意見の中身は同じだろう。しかし、高良がその意見を述べるのに新約聖書の文言を借りたことに、私は反対せざるを得ない。前田は時評の末尾で『女人短歌』に触れていた。

 戦後の「女人短歌」の活動のように、男性優位に抗して女性の自由を主張する女性歌人たちの苦闘の歴史があったことも、忘れずにいたい。


 この一文自体に特に批判すべきところがあるとは私には思われなかった。しかし、高良は強く批判している。〈「性急」ならざる意識変革運動の先例であるかのごとく、女人短歌会が言及されている〉と言い、〈短歌史上の文脈を無視した書き方ではないか。女人短歌会はプロジェクト「セクハラをしないために」以上に大きな反発を受けたことが、記録を読めば伺える〉とも記した上で、次のように述べている。

 主よ、この時評子は、自らが女人短歌を蔑する側に立っていることを、ほんとうに知らないのだろうか。もし彼の目が塞がれているのであれば、それを開かせたまえ。


 つまり、前田は高松のプロジェクトや『短歌研究』の反ハラスメント特集号の性急さを批判しつつ、それらとは違って高く評価できるもののように女人短歌会の活動を位置付けた。ところが、高良の方は、高松や『短歌研究』特集号にまで繋がる社会変革運動の先駆けとして女人短歌会の活動を評価しようとしている。自分の意見の側に女人短歌会を引っ張り込もうとして、取り合いを演じているのだ。

 女人短歌会の発足時に男性歌人たちの反発があったことは高良の指摘する通りだろう。一方で、同会の活動が短期間で終わらず、五十年近く継続されたことも確かだ。前田と高良のどちらの見方にも一理ある。

 私がここで問題にしたいのは両者の意見の内容ではない。高良の論争術である。高良はただ聖書を引くにとどまらず、前田の〈罪状〉を神に訴えることまでしている。その結びは次のような一節である。

 主よ、時評子の目を開かせたまえ。時評子が、誰も急ぎすぎてなどいないことを理解できるように。この祈り、主イエス・キリストの御名を通して、御前にお捧げいたします。


 私は今、いわゆるトーンポリシングをあえてしようとしている。高良の論争術は言論の場の自治を脅かすもので、とても看過できないと思うからだ。高良は神の権威によって人を非難した。前田が信仰を持つ可能性を高良は少しも考えないのだろうか。恐ろしいことだ。そして、信仰を特に持たない読者にとっても、こんな文章を読むのは気持ちが悪い。もし、これをよしとするなら、天皇の権威を借りて人を非難することも許されるだろう。

 誰かを批判するなら、誰の権威も借りずに自己の責任においてすべきではないのか。


(2023.8.25 記)


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