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 ごっさんの文章は何度か読んだことがあるが、歌は読んだことがなかった。先日買った同人誌の特集で、その歌を初めて読んだ。それで感じたのは、同誌に載っている若手歌人のなかで、ごっさん一人だけが風変わり、ということだ。

 なんといえばよいか、若手歌人の作品には「読まれたい」「みとめられたい」といったような色気が感じられるものだと思う。全然悪いことではない。それはつまり表現することへの意欲と同じだから、無い方がおかしいくらいのものだ。

 同誌目次のタイトルを見ただけでも分かる。大森静佳さんの作品のタイトルが「きれいな地獄」。吉田恭大さんが「私信は届かないところ」。土岐友浩さんが「blue blood」。どれもタイトルが読者を誘惑している。

 歌は、吉岡太朗さんの歌を見ておこうか。

中空に尻をとどめておくもんを前提として机ゆうんは



 四つ足をついたその姿は、空中に「尻をとどめておく」ものだという。関西のどこか(?)の方言ともども、読んでもらいたいという作者の気持ちがビンビン伝わってくる。

 ごっさんの掲載作には、この色気が薄いようだ。タイトルからして「長歌と反歌」で、味も素っ気もない。歌はそのタイトルのとおり、長歌の連作5首に反歌1首。長歌の内容は、学校における5段階評価の基準の説明だ。

……優秀な 資質を有し さらにまた その能力を 伸長し 豊かにすべく 相応の 努力をしたと 判断される ことを意味する



 これは「4」の中ほどから結句まで。このとおりの基準が実際にあるのかどうか知らないが、用語は教育関連の法令だとか、学習指導要領だとか、シラバスだとかを切り貼りしたような感じ。それらは、「私」の個性からはかなり距離がある。あまり色気が感じられない理由だろう。ただし、「私」が全然見えてこないわけではない。「と 判断される ことを」といった言い回しに「私」の逡巡のようなものが感じ取れる。「私」が強く押し出される作よりも、むしろ「私」が鮮やかに見えてくるという見方もできるかもしれない。

……必要な わざや知識を 身につけて いると見なせる 材料を ほとんど何も 残さずに……



 こちらは「1」の中ほどの部分。肯定文のつもりで語句をたどると、「ほとんど何も」の辺りでひっくり返る。長歌らしい展開だろう。長歌は長い短歌ではない、ということを知る作者でなければこうはいかない。

 ひっくり返る展開が「5」から「2」までの間になく、「1」だけにあることには、もちろん意味があるのだろう。1を取る者の屈折とか、あるいはまた人間としての面白味とか、がそこに表れているのかもしれない。

 そして「1」にだけ、「私」の逡巡が見えない。1は評価者が付けるというより、半ば自動的に付いてしまうものだからだ。

 こんな具合に見ると、無味乾燥なお役所言葉の切り貼りのように見えた措辞にも作者の意図がさまざまに込められていること、作者がかなりのテクニシャンであるらしいことが理解されてくる。

 ただ、そうはいっても、やはり色気は薄いのだ。今回の作には、色気を抑えたためにかえって人を惹きつけるといったところがあると思う。同誌の他の作者より、この作者はずっと大人だ。しかし、この傾向がさらに進めば、やがて歌を歌うことさえなくなってしまうのではないか。

学校に恵みの秋がやってきて静かになって涼しくなった



 こちらは反歌で、通知表が無事配付された後の図。「恵みの秋」という言葉はイロニーではない、と。

 一言もの申すなら、結句に「涼しくなった」はどうか。暑いから涼を感じるので、「涼しくなった」が秋の後に来るのは不自然な気がする。

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