最新の頁   »   短歌一般  »  松村正直『軍人家庭と短歌:戦後派歌人森岡貞香の初期作品を中心に』を聴く(2)
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 松村さんが紹介された資料の中に、森岡貞香の長男璋氏の回想文があった。それがちょっと興味を引くものだったので、心覚えのためにここに書き写しておく。

 今年1月に亡くなった母森岡貞香は、昭和21年に夫と死別したが、母が詠んだ歌を読み返して見ると、終生亡き夫と共に生きていたような気がする。母が常に手許に置いていた父の写真は軍装で黄河を渡河する写真であった。(森岡璋「夢現」、『偕行』2009年11月)


 戦後の森岡貞香の生活と作品の中に、軍人の夫の面影はずっと残っていた。それを証明する資料の一つとして松村さんは上の文章を引用したわけだが、私がおもしろく思ったのは森岡貞香が手元に置いていたという写真の説明である。亡夫が〈軍装で黄河を渡河する写真〉だったというのだが、これを読んで私たちはどんな写真を想像するだろうか。

 私は陸軍将校がボートか何かに乗っている図を想像した。ところが、これがどうも違うようなのである。松村さんの資料の中には森岡貞香の次のような歌もあった。

何時にても戰帽の垂布ひるがへり黄河の河畔にありき寫眞の (『珊瑚數珠』1977年)

黄河の川岸に立ちてゐる寫眞 軍装のその人いづへにか往く(『夏至』2000年)


 同じ写真を題材にした歌だろう。こちらを見ると、写真の亡夫は軍装で黄河の岸辺に立っていたことが明らかだ。なるほど、〈黄河を渡河する写真〉と説明しても間違いではない。しかし、実際に写真を見ていない者としては、そう説明されるとやはり渡河の最中の写真を思い浮かべてしまう。

 資料が複数ある場合は、それらを比較することでより正確な読み取りが可能になる。一方、資料が一つしかない場合、その読み取りにはもっと注意深さが求められる、ということだ。


(2023.8.21 記)

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