わが死(しに)を祷れるものの影顕(た)ちきゆめゆめ夫などとおもふにあらざるも
(同)
川野さんは、
この一首は、結句の「おもふにあらざるも」が曲者である。最後の「も」が口籠もるようで歯切れ悪く、否定しつつ否定し切れていないのだ。擁護されたはずの夫こそが強調されて、「私」の死を祈っているものはまさに夫その人であると思えてくる。(24〜25頁)
と適切に解釈している。さらに〈この作品では、自らの心を過ぎる「魔」が捉えられ、身近な夫もまたその「魔」を湛えてある〉としつつ、
家族こそ他者の集う場でもある。(25頁)
といった箴言風の言葉でこの一首の鑑賞文を結ぶ。葛原の歌の鑑賞であると同時に、歌人川野里子の世界もかいま見せる、本書前半屈指の佳編。
(2019.8.13 記)
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