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長き髪ひきずるごとく貨車ゆきぬ渡橋をくぐりなほもゆくべし

 (『飛行』白玉書房、1954年)


 『飛行』の中では比較的よく知られた一首。「髪の重たさを与えられた貨車は、髪の重さのみならず人間の女の心の重たさまで引きずるようなのだ」というのが川野さんらしい、フェミニズムの視点を重視した鑑賞の仕方だと思う。

 「渡橋」はトキョウ(トケフ)と読むのだろうが、見慣れない語だ。この語に、川野さんは次のように注を付けている。

 「渡橋」は川に架けられた橋の他に線路を跨ぐように架けられた高架橋などいろいろ考えられる。だが、この作品の遠景となった貨車を長く見送る視線を思えば、高架を潜るような狭い風景ではなく広い川に架けられた橋を想像するのが自然だろう。「くぐり」とあるのは、トラス橋のような骨組みの覆いがある橋を思えば良いのだろうか。


 渡橋は川に架けた橋の意だという。そうかなあ……というのが率直な感想。川の橋なら、わざわざ渡橋などという特殊な語をひねり出して使用することもないだろうという気がする。また、「くぐる」という動詞でもってトラス橋を渡ることを表すのは、ちょっと無理だと思う。

 ここは逆に、線路を跨ぐ陸橋、と解する方が穏当ではないか。少し実証風に言うなら、葛原が住んでいた東京都大田区には、貨物列車専用の品鶴線があった。現在横須賀線として使用されている路線である。その一部区間は掘割を走っており、上には当時も今も跨線橋が数本架かっている。しかも、そこはちょうど長い直線区間で、橋の上から見ると「遠景となった貨車を長く見送る」ことができたのだ。

 「むーさんの鉄道風景」というウェブサイトに、ほぼ同時代の品鶴線の貨物列車を跨線橋から見下ろす写真が掲載されている。貴重な写真なので、ぜひご覧ください。


(2019.8.12 記)


 上の記事で「切り通し」と書きましたが、工事用語で「掘割」と呼ぶとのこと、ご指摘を受けました。その通りに訂正します。丘陵地帯の地面を低く掘り下げて線路を通す掘割は、線路の勾配をなくす、交差する道路を跨線橋で通して踏み切りをなくす、といった利点があるそうです。


(2019.8.12 追記)

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