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 前の記事で『言海』を引用したが、この明治の辞書には一つ思い出がある。あるときのこと、『言海』の「百人一首」の項には

 一ノ字ヲ読マヌヲ例トス



と書いてある、と友人が教えてくれたのだ。この辞書の記述から、

  ヒャクニンシュ

という故実読みが少なくとも明治の途中までは一般的であったということが確認でき、おそらく正岡子規や与謝野晶子もそう発音していただろうということが推測できるわけだが、そもそもそのときの私は、百人一首がかつて「ヒャクニンシュ」と発音されていた、ということを知らなかった。だから、自分の知らないことがたくさんあるのだなあ、とただただ感心したのだった。

 その後、友人とは疎遠になった。『言海』の記述のことを、もしかしたら彼も何かの本を読んで知ったのかもしれない。だが、私にとっては、彼が教えてくれたこと。

 忘れがたい。


(2013.12.3)

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