最新の頁   »   アンソロジー  »  松村正直『戦争の歌』を読む(3)日清戦争、弾琴緒
RSSフィード iGoogleに追加 MyYahooに追加
 本書から何首か抜き出し、著者の鑑賞等に関する感想を書き付けておこう。

からあやを大和錦にくらふれはしなくたりてもみゆるいろかな

  弾琴緒『桐園詠草』(1907年)


 弾琴緒は幕末生まれの旧派歌人とのことだが、私は不勉強で知らなかった。「日清戦争の時李鴻章の来りて和を乞ひけれは」との詞書を付けた一首の由。清の織物は日本のものより劣っているというのが表の意味であり、それが国柄の優劣の比喩になっている。また、「品下りても」は「支那降りても」との掛詞になっている。要するに、日清戦争の勝利を喜び、清を見下す歌を詠んだのである。

 この一首の選出と鑑賞の仕方にこそ、本書の特色が典型的に表れていると言ってよいだろう。鑑賞文中に、この一首を讃える言葉はただの一句もない。著者の選歌の狙いは、その文中の次の箇所に示唆されている。

 織物に限らず遣隋使・遣唐使の昔より日本は多くの文物や制度を中国から取り入れており、中国は長い間に渡ってアジアで最も進んだ国であった。
 その価値観がひっくり返ったのが、まさに日清戦争だったということだろう。明治維新以降の文明開化、富国強兵、ナショナリズムの興隆の中で、日本の方が中国よりも強い、優れているという意識が国内にも急速に広まっていったのである。


 このように、掲出歌から当時の日本人の中国に対する意識の変化を読み取っている。すなわち、歴史の一局面をよく浮かび上がらせる歌としてこの一首を評価し、選んでいるのである。

 なお、掲出歌の濁点を付けない表記は出典に従ったものだ。ただ、「高校生から大人まで、幅広い年代層が親しめるように配慮した」というのが版元の売り文句なのだから、ここは著者が濁点を補って「くらぶれば」「しなくだりても」とした方がよかったのではないかと思う。


(2019.2.12 記)

関連記事
NEXT Entry
松村正直『戦争の歌』を読む(4)日清戦争、樋口一葉
NEW Topics
山中智恵子の一首とともに
松村正直『戦争の歌』を読む(8)日中戦争、穂積忠
瀬戸夏子選「花のうた 二〇〇首」を楽しむ
川野芽生「うつくしい顔」について
松村正直『戦争の歌』を読む(番外)日露戦争、石上露子
平岡直子のニューウェーブ批判について
松村正直『戦争の歌』を読む(7)第一次上海事変、北原白秋その2
松村正直『戦争の歌』を読む(6)第一次上海事変、北原白秋その1
松村正直『戦争の歌』を読む(5)日露戦争、与謝野晶子
松村正直『戦争の歌』を読む(4)日清戦争、樋口一葉
コメント
Trackback
コメントを書く
 管理者にだけ表示を許可する
ブログ内検索
和爾猫より

和爾猫

Author:和爾猫
-
主に近現代の短歌について調べています。
同じ趣味の方がいらしたらうれしいです。

情報のご教示などいただけたら、
さらにうれしいです!

検索フォーム
最新トラックバック
QRコード
QR

CALENDaR 123456789101112131415161718192021222324252627282930