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 なお、「孤雲還」の典拠については岩津も篠も言及していないが、李白「春日独酌二首」の

孤雲還空山 衆鳥各已帰
彼物皆有託 吾生独無依


(孤雲空山に還り、
 衆鳥各已に帰る。
 彼の物皆託する有るに、
 吾が生独り依る無し。)


から採ったものだろう。皆帰るところがあるのに自分にはない、というのが大意か。「孤雲還」の下には、一片の雲に去られて立ちつくす一人の人間の孤独な心がある。

 同時に、そこには帰還を肯定する優しさも弱さもあるようだ。「孤雲還」の三字だけを見るとき、家郷に戻る孤雲にみずからをなぞらえているようにも、私には感じられるのだ。

 八一の額の字について、篠は前掲文で次のように述べている。

 その字体のタッチは柔らかで、じつにみずみずしい。構えたところがなくて、はなはだ抒情的でありさえする。書家として著名になってからの雄勁な、きびしさが顕在されたものより、わたしはこのほうが好きである。『南京新唱』刊行の翌年に書かれたこの書は、生ま身の人間のさびしさを隠さない。


 篠の膨大な著述の中で私が一番に挙げたい一節だ。「孤雲還」の額がいまどこにあるのか知らないが、篠のエッセイにその小さな写真が添えられていて、字の雰囲気を窺い知ることはできる。篠の言葉の通り、みずみずしく麗しい。


(2018.10.8 記)

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