最新の頁   »   短歌一般  »  染野太朗「異化について」メモ
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 『現代短歌新聞』78号(9月5日付)の感想の三つ目。染野太朗「異化について」について。

 嵯峨直樹『みずからの火』(KADOKAWA、2018年)のブックレビュー。これを読んで嵯峨直樹という歌人の名を初めて知った。ウィキペディアを見たら四十代半ばの人で、『みずからの火』以前にすでに二冊の歌集があるとのこと。自分に現代短歌の知識が無いことを再認識する。引用歌がとてもいい。

枝ふとく春夜をはしる絶叫をあやうく封じ込めて静寂

炎症のように広がる群落のところどころは枯れながら咲く


 言葉のつなげ方が上手。『未来』所属の由だが、近代短歌(戦後短歌?)の修辞法をしっかり学んで自己のものとしているように感じられる。枝が太く「はしる」とか、「〜て静寂」で止めるところとか。あるいは、花の群落全体のイメージを出した後に助詞「の」をはさんで「ところどころ」の部分に転じる、その「の」の使い方とか。

 染野は、

 ことばによる現実空間の異化、ということをつよく意識させる。対象をめぐる〈異化以前/以後〉という二段構えが見えてくる。


という。また、

 おもしろいのは、しかし、その異化に至った動機の部分が見えにくいこと。


とし、「歌があらわすのは、情や批評ではなくあくまでも景だ」と指摘する。写実派のよき後継者ということになろうか。

内へ内へ影を引っ張る家具たちに囲われながら私らの火

内側にしおれて四肢はあかつきの光をかえす湖水のようだ


 こちらの歌について染野は、

 「家具」「四肢」をめぐる二段構えが見えにくい。このとき、ことばはもはや異化のための〈道具〉ではない。


という。前の二首などの発展形として、後の二首の方をより高く染野は評価しているようだ。しかし、「異化以後」と二重写しで「異化以前」の景も想像できる前の二首の方が、私にはおもしろい。この辺りは好みの問題だろうか。
 

(2018.9.4 記)

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