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(語り残されたこと)

 配付資料に西田選の

「ニューウェーブ30年」アンソロジー


と穂村選の

「ニューウェーブ」作品


が含まれていた。西田の方は荻原・加藤・穂村と西田自身の作、計十一首、穂村の方は同じ四人の計八首である。ここに他の歌人が入っていないことからも、ニューウェーブは四人以外にあり得ないというのが彼らの元々の考えであると分かる。

 残念だったのは、座談の中でこの資料が話題にならなかったことだ。時間の都合で省略されてしまったようだ。個々の作品に関して、「ニューウェーブは、何を企てたか」というテーマはほとんど探究されないまま残された。西田のシンポジウム後のツイートがこの点に言及している。

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 前半の進行に若干の緩さがあり、特に加藤と石井僚一の掛け合いなどは荻原から「居酒屋トーク」と評される程度の無駄話(加藤の責任だろう)だっただけに、あの時間がうまく使えていればと惜しまれる。

 ただ、「ニューウェーブは、何を企てたか」を考えるためには、まずニューウェーブ幻想を否定する必要があったという気もする。今回のシンポジウムで幻想が一旦否定され、本来のテーマを探究する準備がようやく整ったのかもしれない。

 ニューウェーブを運動として捉えるとき、議論は辞典の記述のように歌人たちの共通項を探る方向に進むと予想される。しかし、ニューウェーブを現象として捉えるなら、彼らがいかに違ったかを論じることもできるだろう。たとえば、『シンジケート』と『マイ・ロマンサー』はかなり違うじゃないか、とか。私見では、同じ穂村の歌集でも、『シンジケート』と『ドライ・ドライ・アイス』の間には他者の有無という重要な違いがある。こういった議論を経た後に本質的な共通項が浮かび上がってくるかどうか、私は知りたい。

 今回のシンポジウムを主催した書肆侃侃房は、記録を今夏創刊予定のムック『ねむらない樹』に掲載するとのことだ(花笠海月「2018年6月1日~3日の日記」)。西田・穂村本人による上記資料の詳細な解説も、併せて載せてほしい。書肆侃侃房の担当氏は、私のブログなど見ていないだろうけど。

 ちなみに西田の自選歌は、

地球ニハ**ナノネナノネノナノネミギナノネヒダリナノネ、ヨウコソ!

シーソーをまたいでしかも片仮名で話すお前は——ボクデスヲハリ


(『ストロベリー・カレンダー』1993年)


 穂村の自選歌は、

呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」と貴方は教えてくれる

「キバ」「キバ」とふたり八重歯をむき出せば花降りかかる髪に背中に


(『シンジケート』1990年)


 自選の理由は? ただこれだけでも、興味が尽きない。


(極私的な感想)

 西田政史の発言の一つ一つが思慮深く、知的に聞こえたことが印象深かった。『ストロベリー・カレンダー』の作者はこの人か、と私は静かな感動を覚えていた。司会役の荻原から「やり残したことは?」と問われて答えたのが西田の席上での最後の発言だったが、それはおよそ次のような言い回しだった。

 西田 ミッションということでもないし、自分をニューウェーブと思ったこともなかったし、あまり考えてなかったんですけれど、やり残したことは……ないですかね。


 こうして自分のメモを読み返すと、実際の発言の印象とか、それを取り巻く空気感とかがそこに全然保存されていないのがもどかしい。この歌人は常に自分の視点から等身大の自分の思いなり考えなりを語ろうとしている、そして語れないことは語らない、と私は感じたのだ。

 そもそも私がこのシンポジウムへの参加を申し込んだ動機は、これまでずっと露出の少なかった西田の姿をこの目で確かめたいということだった。私の好奇心はもちろん十分に満たされた。


(ひとまずヲハリ)


(2018.6.11 記)

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