最新の頁   »   短歌一般  »  高木佳子「時評:他方を見ること」について
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 戦時中の『潮音』に登場する桐谷侃三と当時同誌を主宰していた太田水穂の関係について、私は昨年「誰が桐谷侃三だったのか」と題する小文にまとめた(『現代短歌』2017年11月)。『潮音』の今年の2月号に掲載の高木佳子「時評:他を見ること」がその小文を取り上げてくれている。

 今日の潮音社の人たちが拙稿にどのような感想を持ったか、正直なところ、気になっていた。高木の文章はありがたく、うれしい。

 さて、その内容を見ると、冒頭に「スリリングな論考だった」とあり、「緻密な調査と検証に基づき」云々とあるのは過褒とは言え、光栄で、これもうれしい。ただ、その後は拙稿への異論が続いている。私は中河与一宛水穂書簡を新資料として提出し、それを根拠に「水穂が桐谷である」と主張したのだが、高木は「本論考に提示された書簡の書面だけでは(略)決定打には欠ける」と言う。すなわち、

 この書面を精査すれば、書面の内容は自らが桐谷侃三であるという水穂本人の直接の告白がない、「桐谷の名をもって」などの水穂本人による確定的な記述が認められれば揺るがぬ資料であるわけなのだが、それがない。したがって、中河与一氏と太田水穂の親密さ、且つ水穂の血気盛んな戦争翼賛の度合いが改めて確認されるという事実のみがそこに認められるものの、それ以上でもそれ以下でもないことが惜しまれる。


と言うのだ。

 私自身はできるかぎりの論証を尽くしたつもりだ。だが、拙稿の内容が水穂の名誉に関わることは、もちろん理解している。だから、「決定打に欠ける」との指摘は、まず真摯に受け止めなければならないと思う。

 その上で一つ、高木への疑問を述べたい。確かに、水穂書簡の文面には、桐谷の名は一度も出てこない。しかし、土岐善麿の「反戦反国家思想」を「小生完膚無く剔抉いたし十一月号潮音に発表いたしおき候」とあり、「九ポ五頁(二段グミ)に候」ともあるのが「水穂本人による確定的な記述」だ、というのが拙稿の主張なのだ。書簡の一言一句をそのままの意味で素直に読めば、拙稿のように解されるのではないか。それを「確定的な記述」として認めないと言うのであれば、具体的に理由を示してほしいと思う。


(2018.3.17 記)

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『現代短歌』10月14日発売
コメント
241
「歌壇」4月号の篠弘さんの連載「戦争と歌人」が土岐善麿の『六月』のことを取り上げています。その中で

項をあらためて解説したいが、歌集の批判をしながら、目的は新体制運動への迎合をうながす動きであった。匿名の「桐谷侃三」【きりがやつかんざん】(注、すでにその同人高橋勝次【かつじ】であることは論証済)の「転換期の短歌と称するもの―歌集『六月』の隠匿する思想を検す」と、主宰者太田水穂の「緊急消息」との二文である。

と書いていて、ちょっとびっくりしました。中西さんの論には全く触れていないです。


243
商業誌も結社誌も同人誌も全然追い切れていなくて、『潮音』2月号もひと月遅れで確認し、『歌壇』最新号も当然のようにまだ見ていません・・・。

そう書いてあるとすると、それは確かに、ちょっとびっくりですね。

私の想像ですが、篠さんは連載原稿をかなり以前に(つまり私の論考以前に)何号分かをまとめて脱稿して、『歌壇』編集部に渡してあったのではないでしょうか。いくつもの仕事を同時に抱えておられるし、お年でもあるし、編集部がもっときちんと目配りをしなきゃ、と私は思います。

244
なるほど、確かに中西さんの論考を読む前に書かれたものかもしれませんね。

篠さんの「戦争と歌人」は毎回興味深く読んでいて、いつか単行本にまとまるのを楽しみにしています。

245
篠さんが単著を出版するのには厳しい基準が篠さん自身のなかにあるそうで、つまり『近代短歌論争史』や『現代短歌史』のような大きなテーマの、大部の本でないと出さないということのようです。たしかに、歌集以外の既刊の本はそういうものばかり。

そうだとすると、「戦争と歌人」の連載も単行本としての出版はなかなか簡単ではないかもしれませんね。出版社ががんばって日参でもしないと。

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