最新の頁   »   短歌一般  »  山田航「もはや抗えないもの」について(1)
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 『短歌』6月号掲載の山田航の時評「もはや抗えないもの」は論旨が行きつ戻りつし、読んでいて頭がこんがらがった。もう少し平易に書けばよいのにと、つい思ってしまう。

 せっかくがんばって読んだので、前半の感想を残しておこう。


     §


 私の理解では、大体こんな内容だ。

1 目黒哲朗「生きる力」への違和感
 文語旧かなで「現実の体験を描こうとしていること」が現実の事件とその当事者の存在から「目をそらしているようで無責任に感じられてしまった」。

2 文語旧かなは「言葉のコスプレ」
 文語旧かなは「非リアリズムの歌であれば」許容されるが、その文体で「今この時代のリアルを表現することは、もはや不可能になってしまった」。

3 文語旧かなの思想性の消滅
 文語旧かなはかつては「国家が規定した文体・表記」である口語新かなを「あえて否定する」思想的意義を持っていたが、今では口語新かなも「成熟」し、文語旧かなは「思想としての体系を保つことが出来なくなってしまった」。

4 文体の硬直化への反対
 「表現したい内容に合わせて文体を自在に使いこなせる歌人こそ、プロフェッショナル」。


     §


 まずについて。目黒哲朗「生きる力」(『歌壇』2月号)は実際の傷害事件を題材に、容疑者の知人という立場から詠んだ一連の歌で、山田は、

「悩むことが限界になりやけになつて人を刺した」と供述せりき
「物静かな普通の女性。会へばいつも挨拶をする人だつた。」われは


といった歌を引き、

 気になったことがある。それは文語旧かな表記である。(略)この文体で現実の体験を描こうとしていることが、(略)たとえるならば、アナウンサーがアニメキャラのコスプレをしてニュースを読んでいるようなものに見えた。扱っているニュースの内容によってはそれが許容されることもあるだろうが、何の説明もなくそれだとやはり説得力を感じず、「ふざけているのか」と思ってしまうだろう。


と言う。ここでは「いつも」と「そのとき」の関係を考慮する必要があると私は思う。「アナウンサーがアニメキャラのコスプレをして」ニュースを読むことと歌人が文語旧かなで「現実の体験を描こう」とすることでは、その関係が違う。

 アナウンサーは、いつもそれなりの服装をしている。そのアナウンサーがいきなりセーラー服を着て登場したら、それは視聴者は「ふざけているのか」と思うだろう。しかし、女子高生がセーラー服でテレビ画面に登場し、深刻な事件についてコメントをしても、もちろんだれも「ふざけているのか」とは思わない。

 歌人の「文語旧かな」もこの女子高生のセーラー服のようなものだ。日本で義務教育を受けた人なら、短歌は今でもしばしば昔の言葉遣いで作られる、くらいの知識は一応持っている。だから、歌人が実際に起こった傷害事件を題材にして、「文語旧かな」で短歌を作ったとしても、読者が「ふざけているのか」と反発する理由はない、と私には思える。山田は、

 たぶん短歌を読まない人間にとって文語や旧かなは、今や「昔の人の文体」というよりも「中二病の文体」というイメージの方が強いはずだ。


とも言うが、「ある言葉を、誰が、どんな場面で使ったか」という視点をもっと意識した方がよいのではないか。

 誰かが自身の心象風景を延々とツイッター上に書き付けたとする。片言の「文語旧かな」で、だ。それを読んだ高校生が「中二病」などと感じることはありそうだ。しかしまた、同じ高校生が授業で習った「文語旧かな」の短歌に対しては「中二病」と感じなかったとしても、特に不思議はない。前者と後者とでは「文語旧かなを、誰が、どんな場面で使ったか」が違うからだ。


(続く)


(2017.7.17 記)

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