最新の頁   »   短歌一般  »  小池光『石川啄木の百首』覚書(4)
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 小池光の視界に土岐哀果はほとんど入っていないらしい。それが、本書中でただ一つ、物足りなく思ったところだ。

 短歌を一行や二行でなく三行で表記するというまさに革命的方法は、友人土岐哀果のローマ字歌集『NAKIWARAI』に先例があるが、ローマ字でなく日本語文字で短歌を三行に書くのは啄木のまさに発明であった。(略)三行書きは啄木にはじまり、啄木に終わるので、啄木以降誰も三行書きを試みた歌人はいない。(解説「歌」の原郷)


と小池は書く。しかし、『NAKIWARAI』の影響はやはり大きかったのではないか。また、啄木を「日本語文字で短歌を三行に書く」ことの発明者とするなら、『黄昏に』(1912年、『一握の砂』刊行の一年余り後)の哀果はその後続者ということになる。「三行書きは啄木にはじまり、啄木に終わる」とか「啄木以降誰も三行書きを試みた歌人はいない」とかいったことは事実認定として間違っていると思う。

 『一握の砂』には「かな」で終わる歌が多い。数えてみたら八十八首もある。五百五十一首の中の八十八首だから16%にもなる。(略)こんなに「かな」止めを多用した近代歌人は外にない。(91頁)


というが、『黄昏に』の場合も、「かな」止めは八十五首ある。「かなや」も含めれば、偶然にも『一握の砂』と同じ八十八首。そして、『黄昏に』の歌数は『一握の砂』よりずっと少ない三百五十二首だから、「かな」「かなや」止めの八十八首は『一握の砂』の場合をはるかにしのぐ25%。実に四首に一首の割合である。

 小池は『黄昏に』をきちんと読んでいないのだろう。もっとも、小池に限ったことではない。哀果の歌をまともに読み、論じた人がこれまで幾人いたか。『黄昏に』の代表歌としてしばしば、

指をもて遠く辿れば、水いろの、
ヴオルガの河の、
なつかしきかな。

りんてん機、今こそ響け。
 うれしくも、
東京版に、雪のふりいづ。


といった歌が紹介されてきたのは、この歌集にとって不幸なことだったと私は考えている。もっと刺激的な歌がたくさんあるのに、それを読まないのはもったいないことだ。


(2017.6.28 記)

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コメント
208
『黄昏に』は面白い歌集ですよね。昨年「短歌人」の夏季全国集会で「石川啄木と土岐哀果」という講演をしました。

「1.二人の交友はわずか一年三か月のことであった」「2.二人の歌は驚くほどよく似ている」「3.啄木の歌にあって哀果の歌にはないもの」「4.『創作』という場が果たした役割」という内容です。

ちなみに3についてですが、〈東京に生まれ育った哀果には「望郷」の歌がない。そして「病気」の歌がない〉というのが僕の見解です。

211
「短歌人」で講演されたのですね。活字化はもうされていますか?

1は頭では分かっていても、なにかこう「えーー!?」という意外感がありますよね。啄木死後に哀果がやった啄木関係の仕事を考えると、もう唯一無二の親友としか考えられないですもんね。

2は本当にいろいろ挙げられそうです。本質的なところからこまかな言葉遣いまで。松村さんはどのあたりに注目されたのでしょう。道具立ても似ているのがありますね。「われ泣きぬれて/蟹とたはむる」と「砂浜に、小さくつくばひ、/わがむすめ、蟹と遊べり。」とか。

3はなるほど、そうですね。哀果にあって啄木にないものもあるでしょうか。

4、『創作』は牧水の『創作』ですね?

221
講演は「短歌人」の昨年11月号で簡単に触れられているだけで、残念ながら活字化はされてません。自分で録音しておけば良かったですね。

講演で使ったレジュメがあるので、メールで送ります。「創作」は牧水の「創作」です。


222
「短歌人」の人たちは・・・この講演の価値をちゃんと理解したのだろうか? もったいない・・・

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