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 北見志保子の歌についてもう一つ、樺太の少数民族「ギリヤーク」「オロッコ」等に対する認識。

年問へば十と答へし子がひとみつひに亡ぶる種族のいろか
亡びゆくこの子らが末を思ひみる杜ふかくあゆむツンドラ湿地
国籍のなき人人の生きざまもわれにはまさる清
(すが)しさあらむ


 こういった歌がある。先に引いた歌にも「死にゆく種族」など、同様の表現があった。『樺太を訪れた歌人たち』の著者は樺太において少数民族が差別的な扱いを受けていたことに触れ、

 ……アイヌに日本国籍が与えられ、アイヌのための教育所が順次、尋常小学校に昇格した後も、彼ら少数民族には日本国籍は与えられず、学校も格の低い「教育所」のままであったのだ。(25頁)


と指摘し、「つひに亡ぶる種族」「亡びゆくこの子らが末」といった表現には「そうした意識が反映しているだろう」とする。

 簡にして要を得た説明だと思う。ただ、それら少数民族の生活する土地を統治し、それにも関わらず彼らに国籍を与えず、立身出世の機会も与えなかった日本は、われらが祖国である。北見は少数民族の子どもたちに同情するが、その北見に当事者意識がまるで見られないのはどういうわけだろうか。これは非難ではなく、純粋に疑問として言うのである。

 「われにはまさる清しさあらむ」などと勝手なことを言って平気でいられるのは、どういうわけだろうか。


(2017.2.13 記)

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コメント
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オタスの杜は一種の観光地になっていて、北見志保子以外にも林芙美子や松村英一、土岐善麿など多くの文人が訪れています。彼らの残した文章や短歌を読んでも、北見志保子とさほど変わりません。そこには「同情」はあっても、「当事者意識」と呼べるほどのものはありません。

やはり植民地支配や帝国主義などの時代背景が大きいのでしょう。20世紀初頭の人類学や民族学においては、「優等人種」「劣等人種」という言葉が当り前に使われていて、劣等人種は滅びてもやむを得ないという認識が社会にも広まっていたように感じます。

例えば『土人調査』(樺太庁敷香支庁編、1933)には、オタスに関して次のような記述があります。

【優等種族のために圧迫せられ極北寒地に余命を保ち年と共に滅び行く弱小民族、仮令国籍を有しなくとも放棄して置くべきでないので土人事務所を設け、事務の指導員を置いて保護管理の方法を講じて居る。】

「仮令国籍を有しなくとも」が当事者意識の欠落をよく示していて、大日本帝国(そしてその行政の末端である敷香支庁)が国籍を与えなかったのに、「日本国籍を持っていなくても(持っていないけれど)」と言っているわけです。

北見志保子の歌も、こうした説明や認識に基づいたものなのでしょう。彼女だけの問題ではなく、これが当時の一般的な考えだったのだと思います。

もちろん、例えば中島敦が南洋に行って、日本の植民地支配の欺瞞や問題点にいち早く気づいて、批判的な文章や小説を書いたという事例もあります。文学者であれば、そうした部分にまで踏み込んでほしいという気持ちは、僕にもあります。

ただし、南洋で生活した中島敦と違って、北見志保子のオタス滞在は数時間のことであり、そこまで望むのは難しいかもしれないとも思います。

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引用された『土人調査』の一節と北見志保子の歌は、見事なまでに考え方が共通していますね。「植民地支配や帝国主義」「人類学や民族学」の影響下に醸成された「当時の一般的な考え」ということなのですね。

それでも「放棄して置くべきでないので土人事務所を設け」あたりは、当時の近代的・進歩的な政策ということだったのだろうと思います。

松村さんのこのコメントで当座の私の疑問はほぼ解消しました。ありがとうございます。(『樺太を訪れた歌人たち』に上の『土人調査』の引用があればもっとよかったと思います!)

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