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 九官鳥しゃべらぬ朝にダイレクトメール凍って届く二月

    穂村弘『シンジケート』(1990年)12頁



 会津八一の家にいた九官鳥はひねくれ者で、人が「こんにちは」と呼びかけると「さようなら」と返してきたそうだ。コミュニケーションが成り立っているのかどうか、よく分からない相手だ。

 そんな九官鳥すらしゃべりかけてこない朝、ダイレクトメールだけが郵便受けに入っていたという。この「ダイレクトメール」は、素性のしれない業者が怪しげな商品を宣伝する類のものと解したい。個人情報保護法の施行以前、またネット通販の普及以前はその手の郵便物がしょっちゅう届いた。高校の卒業アルバムに卒業生全員の住所と電話番号が載っていた時代だ。

 誰とも言葉を交わさない無音の情景を描写して二月の季節感を表すのが掲出歌のテーマだろう。付き合いたくない相手からのメッセージがノイズとしてその情景に入り込んでくるところは、現代風だ。

 ただし、そのノイズは、「凍って届く」設定により一定程度、美化される。美の世界の境界線を踏み越えそうで踏み越えないのは、『シンジケート』の特徴の一つではなかろうか。

 なお、「しゃべらぬ」は、文語を使用して語調を整えている。こういった言い回しと「ダイレクトメール」のようなカタカナ語が共存しているのが『シンジケート』の文体である。


(2017.2.8 記)

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