最新の頁   »   穂村弘  »  ダイレクトメール凍って:穂村弘『シンジケート』鑑賞
RSSフィード iGoogleに追加 MyYahooに追加
 九官鳥しゃべらぬ朝にダイレクトメール凍って届く二月

    穂村弘『シンジケート』(1990年)12頁



 会津八一の家にいた九官鳥はひねくれ者で、人が「こんにちは」と呼びかけると「さようなら」と返してきたそうだ。コミュニケーションが成り立っているのかどうか、よく分からない相手だ。

 そんな九官鳥すらしゃべりかけてこない朝、ダイレクトメールだけが郵便受けに入っていたという。この「ダイレクトメール」は、素性のしれない業者が怪しげな商品を宣伝する類のものと解したい。個人情報保護法の施行以前、またネット通販の普及以前はその手の郵便物がしょっちゅう届いた。高校の卒業アルバムに卒業生全員の住所と電話番号が載っていた時代だ。

 誰とも言葉を交わさない無音の情景を描写して二月の季節感を表すのが掲出歌のテーマだろう。付き合いたくない相手からのメッセージがノイズとしてその情景に入り込んでくるところは、現代風だ。

 ただし、そのノイズは、「凍って届く」設定により一定程度、美化される。美の世界の境界線を踏み越えそうで踏み越えないのは、『シンジケート』の特徴の一つではなかろうか。

 なお、「しゃべらぬ」は、文語を使用して語調を整えている。こういった言い回しと「ダイレクトメール」のようなカタカナ語が共存しているのが『シンジケート』の文体である。


(2017.2.8 記)

関連記事
NEXT Entry
松村正直『樺太を訪れた歌人たち』覚書(5)
NEW Topics
山崎聡子「わたしたちが身体を所有すること」メモ
「意志表示せまり声なきこえ」の解釈
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(9)
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(8)
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(7)
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(6)
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(5)
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(4)
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(3)
『現代短歌』2020年5月号(特集 短歌と差別表現)について(2)
コメント
Trackback
コメントを書く
 管理者にだけ表示を許可する
ブログ内検索
和爾猫より

和爾猫

Author:和爾猫
-
主に近現代の短歌について調べています。
同じ趣味の方がいらしたらうれしいです。

情報のご教示などいただけたら、
さらにうれしいです!

検索フォーム
最新トラックバック
QRコード
QR

CALENDaR 12345678910111213141516171819202122232425262728293031