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 うれしかったのは、花笠海月氏について知ることができたことだ。氏の寄稿した「六花書林10.5周年記念フェア」なる文章に次のようにある。

 私は現在、古書いろどりという古本屋にいる。無職仲間と立ち上げ、二〇一二年に事務所営業で開業。まだ並行してアルバイトをしているけれど、なんとか四年を超えることができ、昨年末に店舗営業を開始した。


 ちょっと前に、友人のスマホの画面上で、氏のツイッターのつぶやきを見せられた。貴重な古書の原本とそれに関係する知識とを次々に披瀝するさまに、私は驚嘆した。有閑の資産家にして古書収集家かと想像し、しかし今どき日本にそんな人がいるものかと不思議に思っていた。古書販売をなりわいとする人だと分かって、すっきりした。

 さらに以前、氏の論考「薔という名の青年」(『短歌人』2006年7月)を黒瀬珂瀾さんに奨められて読み、古いマイナー雑誌に関する知識に驚いたこともあった。そのときは、この人こそマニアだと思った。

 というのは、その文章が決して上手ではなかったからだ。氏をおとしめるのではない。マニアのことを「狂」と呼ぶこともある。野球狂とか、鉄道狂とか。自身の思考の道筋を整理して説明することができてしまう「研究者」は、結局この「狂」の世界には入れないのだと思う。

 今回の氏の文章にも特徴がよく表れている。

 宇田川さんとは短歌人会入会が同じ年(宇田川さんのほうが少し早い)で、長いつきあいになる。


 ……私の紹介を宇田川さんは「ほんとかな?」と思って聞いていたにちがいない(と、今になって思う)。


 十八営業日で、四十数冊の売上があった(五十冊には届かなかった)。


 丸括弧内はどれも、読者には不要の情報のように思える。宇田川氏と花笠氏の入会日が数週間だか数ヶ月だかずれていたとしても、他人にはどうでもよいことだ。それより知りたいのは入会年がいつなのか、ということだろう。それが分かれば、花笠氏の年格好を想像するひとつの材料にもなる。

 しかし、そんなことに関わりなく、氏自身には「宇田川さんのほうが少し早い」ということが重大だったのであり、「五十冊には届かなかった」ことがたいそう気になることだったのだ。個人の気持ちの引っ掛かりを軽んじないのがマニアの資質であり、能力だと思う。


(2016.12.9 記)

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