最新の頁   »   短歌一般  »  有吉佐和子『悪女について』メモ その二
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 富小路公子と出会った夜のことを旧華族の女、烏丸瑤子が語る一節。

 あの子が立って、恥しそうに一礼して、私にも気まり悪そうに会釈して坐った。私は綾小路さんじゃないのが分って、富小路というのは、聞いたことないな、そういう苗字って昔からあったのかしらんと思ってね。ちょっと考えこんじゃったのよ。(新潮文庫六十刷、258頁)


 その後の二人の会話。

「私、綾小路さんのお嬢さんかと思ってたのよ。富小路って、変な苗字だね。京都の町みたいじゃないさ」
「本名は富本なんですけれど、平凡ですから、富小路と名乗ってますの。これだとすぐ名前を覚えて頂けますから。まず名を覚えて頂くのが大事なことでございましょう?」(同、258頁)


 また、瑤子の母の発言。

「……でもね、富小路という苗字は、明治以前には確かに公家にあった筈よ。昔の地図で見たことがあるわ。有栖川さんの御殿のすぐ傍に屋敷があったようよ」(同、263頁)


 富小路は一見華族風ながら、華族にない苗字だという。しかし、小説の外部の事実は(つまり、実際は)そうではない。終戦後まで富小路子爵が貴族院議員を務めていたし、著名歌人の富小路禎子はその家の娘だった。

 『悪女について』はもちろんフィクションだが、それにしても奇妙だ。有吉はどこでどう間違えたのだろうか。


(2016.9.5 記)

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