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 三一書房版『葛原妙子歌集』(1974)は、『朱霊』(1970)以前の歌集を、未完歌集まで含め網羅した本である。葛原の生前に刊行されたものだから、当然本人の手が入っており、第一歌集『橙黄』(初刊本は1950)に大幅な改稿があることはよく知られている。

 これまで誰も指摘していないはずだが、この本では、『原牛』にも細かい改稿がある。

かいまみし妻は緋鯉なりにし赤き胸びれに米をとぎゐし(津軽昔噺)



の注記「(津軽昔噺)」を削除したり、

拡大鏡ふとあてしかば蝗の顎ありし 蝗の顎は深淵



の下句を「蝗の顎ありし蝗の鉤の顎はも」に改めたり、といった類である。私は初刊本の本文の方が好きだが、作者と読者の思いはときにすれ違うもので、仕方がない。

 さて、前の記事で取り上げた「高原に青樅匂ふ」の歌は、三一書房版ではこうなっている。

唐突にわれのきたりし高原に青樅匂ふ さびしくありける



 初刊本では「さびしといはん」とあるべきところが誤植で「さびしくといはん」になっていたわけだが、ここでその「さびしく」の方を生かしているのがおもしろい。

 思うに、初刊本の原稿にすでに「さびしくありける」に近い形が一案として記されていて、何度も朱を入れられた末に、そのうちの「く」1字が確定本文「さびしといはん」のなかに紛れ込んでしまった、ということではなかろうか。

 そして、後年の三一書房版ではかつて捨てられた案に近い「さびしくありける」が採用された、ということではないか。


(2013.11.11 記)

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