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 葛原妙子の生前最後の歌集は『鷹の井戸』(1977年)で、それ以降の発表歌は森岡貞香が『をがたま』としてまとめ、短歌新聞社版『葛原妙子全歌集』(1987年)に収めた。森岡と短歌新聞社版全歌集の大きな功績だ。

 さて、この『をがたま』は当然、雑誌掲載時の字句をそのまま採ることを原則としているのだが、まれにその雑誌掲載時の字句と一致していない箇所がある。目に付いたところを挙げると、次の四箇所である(不一致の字・記号に下線を引いて示す)。

①歌
硝子戸のうちに寒気のち響き壁なる鋲のなべて光り来
  (『短歌研究』1978年3月)
硝子戸のうちに寒気のち響き壁なる鋲のなべて光り来
  (短歌新聞社版『葛原妙子全歌集』373頁)

②歌
幽暗の林檎実らばよりゆきてムーンクイーンと呼ばむしはいかに
  (『短歌』1979年1月)
幽暗の林檎実らばよりゆきてムーンクイーンと呼ばしむはいかに
  (短歌新聞社版『葛原妙子全歌集』378頁)

③歌
おほあれちのぎくを踏みて立ちゐたり 勇ならずやものれ立つこと
  (『短歌』1979年10月)
おほあれちのぎくを踏みて立ちゐたり 勇ならずやものれ立つこと
  (短歌新聞社版『葛原妙子全歌集』383頁)

④連作のタイトル
大河夢ならず(歌誌『をがたま』1982年8月)
大河夢ならず(短歌新聞社版『葛原妙子全歌集』404頁)


 このうち、①と④は『全歌集』の誤り、③は初出誌の誤字を『全歌集』が訂正したものに違いない。

 難解なのが②である。初出形「呼ばむし」の意味が取れないので、『全歌集』はこれを誤植と判断し、「む」と「し」の字を入れ替えたものと一応考えられる。しかし、この入れ替えは適切だろうか。

 「呼ばしむ」は「呼ばせる」の意だろうが、そうであるなら文法的には「呼ばしむる」にしたい。しかも、「呼ばせる」と解したところで、なお一首全体の意味は曖昧模糊としたままだ。呼ばせる相手は誰か。林檎の実に寄りゆくのは自分か、相手か。

 初出形の「呼ばむし」は明らかに誤植を含む。しかし、訂正後の「呼ばしむ」もまた、元原稿の形を復元できているかどうか、あやしい。


(2016.1.14 記)

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