最新の頁   »   動詞の終止形に関するノート  »  動詞の終止形に関するノート(4)短歌の用例
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 何を状態動詞とし、何を動作動詞とするかの区別に自信がないので、とりあえずその辺りは気にせず、動詞の終止形で言い切る短歌作品を思い付くまま挙げてみよう。

ふるさとの訛なつかし
停車場の人ごみの中に
そを聴きにゆく

  石川啄木

椎の葉にながき一聯の風ふきてきこゆる時にこころは憩ふ
  佐藤佐太郎

メスのもとひらかれてゆく過去がありわが胎児らは闇に蹴り合ふ
  中城ふみ子


 停車場にふるさとの訛を聴きに行くのは、習慣的動作のようだ。風音が聞こえるときに緊張を解くのも習慣かもしれない。胎児らが闇の中で蹴り合う幻想は、この女の脳裏から常に去らなかったものだろう。

枯葦の中に直ちに入り来り汽船は今し速力おとす
  土屋文明

沈黙のわれに見よとぞ百房の黒き葡萄に雨ふりそそぐ
  斎藤茂吉

金の眼をしたる牝猫が曇りつつ寒き昼すぎの畳をあるく
  佐藤佐太郎

行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ
  山中智恵子

一夏(いちげ)過ぐその変遷の風かみにするどくジャック・チボーたらむと
  小池光


 だが、汽船が速力をおとすのは? 百房の葡萄に雨が降りそそぐのは? 私には現在進行の出来事のようにも感じられるが、よく分からない。牝猫が畳をあるくと言い、鳥髪に雪が降ると言う。習慣的動作とも未来の動作とも思われないが、どうだろう。夏が過ぎるのは季節の循環かもしれないが、一夏が過ぎるのは?


(2015.7.17 記)

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