最新の頁   »   短歌一般  »  松村正直「かたちを持たぬ雲」によせて
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 『塔』4月号に載る松村さんの歌が心にしみる。

このあたりにたしかポストが、紅葉のあかるき中にたしかポストが


 並んで載る他の歌と関連があるのかどうか分からないが、一首単独で読んでおもしろい。言い回しは平易な会話調で、内容は童話的。子どもなら誰でも知っている、けれども大人になると忘れてしまう、世界とか存在とかの不思議。そして「わたし」は、「ぼく」は、言いたいことがあるのだが、その言葉は届けたい誰かに届かないまま……。

黙ってそっと肩に手を置く寄り添いの仕種はついにわがものならず


 その仕種の意味は学習して知っている。知っているけれども、そうしようとすると違和感がある。心と一般的、社会的な動作の結び付きに違和感を感じているだけなのに、まるで自分に心がないように感じられてくるかなしみ。

雲ひとつなき青空と言うときのかたちを持たぬ雲のごときか


 人は雲一つない青空を喜ぶが、松村さんの思いは見えない雲の方に向いている。雲を何にたとえているのだろう。

かなしみはついに言葉に追いつかずくちびるだけが動くしばらく


 深く激しい感情に襲われた人が何かを言おうとして、しかしその何かが声にならず、唇だけが何かを言うように震えながら動いている——という場面かと思った。心にしみた。だが、その解釈だと、逆に言葉がかなしみに追い付かないことになってしまうか。私の誤読のようだが……?


(2015.5.13 記)

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コメント
90
丁寧に鑑賞していただき、ありがとうございます。
結社誌に載った歌についての批評を聞く機会は意外に少ないので、嬉しく拝読しました。
最後の歌はお書きの通りの場面です。「その解釈だと、逆に言葉がかなしみに追い付かないことになってしまう」とあって、初めて語順が変(?)なことに気付きました。
でも、歌にすると「言葉はついにかなしみに追いつかず」では、ないんですよねえ。感覚的なことですが。

91
今号の歌、好きです。じぶんは「カラスと夜明け」より「かたちを持たぬ雲」のほうが好みです。

「かなしみについに言葉は追いつかず」もダメですか?

92
「かなしみは」で歌を始めたいのですね。
イメージとしては、「かなしみはついに言葉の形となることができずに」という感じです。「かなしみ」という不定形のものが、「言葉」という形になりかけたけれど、なりきれずに、消えて行く…。
また考えてみます。

93
そのイメージはよくわかります。歌が生まれる過程が見えるようなコメント、ありがとうございます。

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