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 近藤芳美が記した文章のなかに、その言葉と、それを言ったという歌人の名が出てくる。

 戦後間もないころ、葛原妙子と云う無名の潮音の歌人が、「私は有名になりたい」と、叫ぶように訴えていた、と、ひどく感心した風に一人の編集者が来て私に告げたことがあつた。詩人でもあつたその年若い編集者は、新らしい短歌と、それをになうにふさわしい激しい個性とを待ちうけていたのであろうし、その無名の女性の思いつめた言葉に、きつと一種の爽快さを聞きとつたに相違ない。(「葛原妙子」、『短歌』6巻13号、1959年12月)


 「有名になりたい」という言葉にひどく感心した年若い詩人とは、中井英夫のことだろう。「私にとつてなつかしい、年長の女性の友人である。」と文章を結ぶ近藤もまた、聞きようによっては軽薄にも聞こえるその言葉にむしろ好意を寄せている。

 詩人が近藤にその者の名を告げたころ、『橙黄』と題された歌集が出版された。それを読んだ近藤は、著者に手紙を出した。

 あなたはこの次には嫉妬され憎悪されますよ


といった意味のことを書いた、という。近藤や中井のような支持者ばかりではないということだろう。実際、近藤が予想したとおりであったようだ。その者よりも年下ながら歌壇では先輩格の斎藤史が、やがてその者に冷ややかな目を向けるようになったわけである。


(2015.4.22 記)

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