最新の頁   »   アンソロジー  »  永田和宏『現代秀歌』覚書その2:「の」という助詞をめぐって
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 本書は現代百首のうちに皇后陛下の一首を採っている。文春新書『新・百人一首:近現代短歌ベスト100』(2013年)などが皇后陛下の歌を最初に採ったアンソロジーかと思うが、永田和宏はその選者の一人でもあったので、二書に採られたと単純に数えることはできない。アンソロジーに定着するかどうか、今後さらに別の選者の選を経ておのずから定まってゆくだろう。


     §


 本書が採った歌は、

てのひらに君のせましし桑の実のその一粒に重みのありて

  『瀬音』1997年


 実際には小さくて軽い桑の実一粒を「重み」のあるものとしたところが眼目である。御成婚の年の作とのことだから、背景に物語を想像することもできる。つまり、記憶に残る詩歌の条件を備えているのである。ただし、永田は

 美智子皇后の歌には、常に韻律が強く意識されている……(13頁)


というが、「重みのありて」の「の」の辺りは調べがやや緩んでいないだろうか。実を言うと、『新・百人一首』が採った歌についても、私は同様のことを感じた。そちらは、

帰り来るを立ちて待てるに季(とき)のなく岸とふ文字を歳時記に見ず

  平成二十四年歌会始


というのだが、「季のなく」の「の」でやはり調べが緩んでいるようだ。同書に載る別の一首、

(こと)の葉(は)となりて我よりいでざりしあまたの思ひ今いとほしむ

  『瀬音』


の韻律にそのような瑕はない。選者の意見を聞いてみたい。


(2015.1.27 記)

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コメント
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岡井隆『現代百人一首』(1995)に一首取られています。

音さやに懸緒截 (かけをき)られし子の立てばはろけく遠しかの如月は

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ご示教ありがとうございます! 感謝、感謝です。1995年の本ですか、『瀬音』出版より前なのですねえ。「はろけく遠しかの如月は」が難解。「子の立てば」の「の」は気にならないです。

岡井さんは『新・百人一首』の選者の一人でもあるので、皇后陛下の歌がアンソロジーに定着したとはまだ判断できないでしょうね。



> 岡井隆『現代百人一首』(1995)に一首取られています。
>
> 音さやに懸緒截 (かけをき)られし子の立てばはろけく遠しかの如月は

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