最新の頁   »   斎藤茂吉  »  田中隆尚『茂吉随聞』上巻を読む(4)歌と真心
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 1944年12月12日。東京大空襲の三ヶ月前、茂吉自身が山形県に疎開する四ヶ月前である。もう一人の来訪者が「特別攻撃隊の人達の歌でも、真心は入つてゐても歌としてはいかがなんでせう」と質問したのに対して、茂吉の返答は、

 さうだ、あれは決してまづいと云つてはいけない。真心が入つてゐるからな。褒めなければいけない。しかし歌としては別だからな。(209頁)


 茂吉に対してこんなことを言うのもナンだが、歌の良し悪しについて冷徹な批評眼を失っていない。


     §


 もっとも、本書が戦後の刊行であることは、一応考えに入れておく必要がある。本書の内容は事実。しかし、元資料である田中のノートに記されながら本書には採られなかった挿話や発言記録が、あるいはあるかもしれない。あくまで仮定の話だが、それは戦後の時勢に合わない内容だったかもしれない。なお、当然ながら、田中が元々茂吉との会話を全てノートに書き留めていたわけでもない。

 例えば、1941年12月23日。

 戦争の話になつた。去る八日には米英両国との間に戦端が開かれた。私はその翌九日に徴兵検査を受けて第二国民兵役丙種合格になつてゐた。
「それはよかつた。君はまだ無理は出来んからな」と先生が云はれた。(14頁)


 当時は「第二国民兵役丙種合格」ならまず招集されることはなかったから、病後の田中を心配する茂吉は「それはよかつた」と言ったわけだが、その前の「戦争の話になつた」ところでは茂吉の言葉が記されていない。茂吉がそこで鬼畜米英的な発言をしていた可能性もあろう。


(2015.1.11 記)

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