最新の頁   »   笹原常与  »  詩人の死
RSSフィード iGoogleに追加 MyYahooに追加
 笹原常与さんが五年ほど前に亡くなっていたという。『やがて秋茄子に到る』批評会の会場で、港の人の里舘氏から教えられて驚いた。すぐにウェブ上で調べてみたが、何も分からなかった。こと日本文学に関するかぎり、一番知りたい情報はウェブ上に無い。

 三省堂版『現代詩大事典』(2008年)の「笹原常与」の項を担当したとき、経歴の一部が分からず、ご本人に手紙を出して問い合わせた。たいへん丁重なご返事を速達でいただいて恐縮した。筆跡、インク、封印……隅々まで上品な趣味の窺われるお手紙だった。

 強く印象に残っているのは、できるならば出身大学を記載しないでほしい、と書いてあったことだ。学歴社会に抗するというようなおおげさな思いを持っているわけではない——と断りつつ、理由を記していた。

 たかだか四年程度の大学生活がその者の成育史にいかほどの影響をもたらすのだろうか、その者の人となりはその者自身の実人生における主体的な生き方によってつちかわれる、それにもかかわらず終生学歴がついてまわる、そういった慣習をせめて私一個においては改めたい——。

 内容というよりその言葉、その表現自体に清潔な人柄がにじみ出ているようだった。笹原さんはさる有名大学の出身だが、私は結局その大学名を書かなかった。
 

しかし 時として 私は見ることがある。人々の心に沈黙が深まる時 おのづからにしてそこに現われる寂寥の海域 その水平線のあたりに 長い間行方を絶っていた寂寥の艦隊が姿を現わし 水面に船影を落としてしばし碇泊しているのを。



 港の人から2002年に出版された『假泊港』より、「寂寥の艦隊」の一節。歌人は助詞一つに至るまで神経を使うが、この詩人の言葉を吟味する態度たるや、それ以上である。

 笹原常与、私の心の中に棲み続ける詩人。そして、こんな言い方をすると堂園さんに悪いようだが、港の人が世に出した数多くの美しい本のなかでも、最も美しい本は『假泊港』にちがいない。


(2014.12.13 記)



笹原常与-1
(装飾を少なく抑えた本体表紙と箱。)

笹原常与-2
(頁の左隅に朱字の章題。)

笹原常与-3
(ノンブル表示が朱色なのが洒落ている。
 栞紐も同じ色。本文は頁の上半分に印刷。)


関連記事
NEXT Entry
詩人の死 追記
NEW Topics
川野里子『葛原妙子』について(6)家族こそ他者……
川野里子『葛原妙子』について(5)渡橋をくぐり……
川野里子『葛原妙子』について(番外)
川野里子『葛原妙子』について(4)ヴィヴィアン・リーと葛原妙子
川野里子『葛原妙子』について(3)塚本邦雄の処女幻想?
川野里子『葛原妙子』について(2)第一歌集の異版?
川野里子『葛原妙子』について(1)追記あり
ニホンカジンか、ニッポンカジンか
すぐには信頼できない資料 その2
すぐには信頼できない資料 その1
コメント
71
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます

75
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます

83
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます

Trackback
コメントを書く
 管理者にだけ表示を許可する
ブログ内検索
和爾猫より

和爾猫

Author:和爾猫
-
主に近現代の短歌について調べています。
同じ趣味の方がいらしたらうれしいです。

情報のご教示などいただけたら、
さらにうれしいです!

検索フォーム
最新トラックバック
QRコード
QR

CALENDaR 12345678910111213141516171819202122232425262728293031