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窓ガラスに映るあなたはあなたよりやや年老いて全集を読む

  『午前3時を過ぎて』135頁



【語注】

 窓ガラスに映る——
場面は夜か。

 あなたはあなたより——ガラスに映るあなたは実際のあなたより、の意。だが、「実際の」「現実の」「うつつの」などと言葉に出さないところに妙味があるのだろう。

 全集を読む——知的な読書家が想像される。


【鑑賞】

 実際よりもガラスに映る影の方が真実に近い、ということを示して私たちの素朴な直感を転倒させるのがこの歌の第一の狙いなのだろう。ただし、物語の世界では、鏡に真実が映ることはむしろお約束であるとも言える。

 それより注意したいのは、やはり「窓ガラスに映るあなた」のこちら側を「うつつのあなた」などと表現していないことだ。そのことで、「あなた」と「あなた」の距離は、実際と影の関係以上に遠くなるようだ。あなたのなかにもう一人の別のあなたがいて、日ごろ会うことのないその別のあなたに不意に会ってしまった、という具合に。

 この感覚は「しらかみはしめりをおびて何年ももうあなたではない人と住む」(37頁)などとも共通するところがある。

 また、もう一つ注意したいのは、「全集を読む」という結句。これは、ある特定の時間・場所の光景を具体的・直接的に述べ表すという写実主義の表現にほかならない。この一首の造りはその近代短歌風の骨格の中に、別のあなた、という非合理的なアイデアを注入した形になっている。

 そして、アイデアの披瀝だけで終わらず、この歌のようにした方がおもしろいと感じる読者の私が確かにいる。写実主義は、まだその耐用年数を超過していないということか。


(2014.11.24 記)

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