最新の頁   »   短歌一般  »  『塔』2013年10月号を読む:田中栄から安達洸介まで
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 『塔』10月号を我が家に贈ってくださった方がいる。最新号を読む機会などあまりないので、とてもうれしい。『塔』には何人かお知り合いがいるのだが、どなたがくださったものか、お礼申し上げます。

 収録されている座談会「結社にふたたび出会う」を読む。17ページにもわたる長さだが、座談会記事というのは長くても気楽にどんどん読めるのがよいところ。しかし、同じ日に届いた別の結社誌は一冊全体で28ページなので、17ページはやはり豪華だ。

 5名の若手会員が短歌と結社をめぐるさまざまなテーマについて話し合っている。河野裕子を受容のされ方、表現主義か生活詠か、結社の現状と問題点、等々。5人それぞれ思うところを自由に口にしている感じで、たいへんおもしろい。

 私の一番の収穫は、田中栄の歌を初めて知ったこと。澤村斉美さんや薮内亮輔さんが次のような歌を紹介している。

指導工に弁当かくされて職習いし頃の物怖じが今に支配す
岸壁の草は波かぶり暮れながらはがねの如きひかり残りぬ
不吉なる予告のありて井戸の底竿に探ればああ母がある



 そして、「指導工」の歌に関する発言は次のとおり。

澤村 ……説明的にずっと詠ってきて最後の「今に支配す」に重みがある。……
吉田 この「に」ってすごいですね。「今を支配す」じゃなくて「今に支配す」。



 後の発言は吉田恭大さん。一首の表現についてこんなふうに語り合える仲間がいるというのが、結社のよさか。この「今に」は「今に残る」などと同じ用法で、「今もなお」と取ればよいのだろう。「支配す」にかかるべき目的語「私を」、が消去されることで、「私」に対する支配の執拗さがより強調されるようだ。

 その他では、安達洸介さんの発言に興味を引かれた。私には発言内容の妥当性を判断できないところもあるが、ともかく理念とか問題意識とかを感じさせる人だ。歌を読んでみたいと思って探したが、出詠者のあまりの多さに中途で断念した。あとでまた探すつもり。

 心覚えに安達さんの発言の一部を抜き書きしておこう。

 その対比は要らなかったんじゃないかと思うんですけどね。
 (河野裕子の評論「いのちを見つめる」が男女を対比して、女が産み育てる性であることを強調した、という指摘に対して)

 でも逆に「塔」の人たちは追悼しすぎなんじゃないかって言っている人もたくさんいますよね。永田さんが朝日歌壇の投稿欄を追悼歌で埋めたのは、あれはもう暴走ではないかとか。(河野裕子の追悼について)

 批評には批判的な観点がほしいというか、河野さんは偉大とか別格とかよく表現されますけど、基本的には今の段階でそういう前提があるわけではないので、どう偉大なのかということをちゃんと説明するような批評を書いてほしい。短歌界では、例えば岡井隆さんのような、客観的な批評がほとんど失われているような歌人もいますよね。結社内で別格扱いされていて、やっぱり批評で扱いにくいんですかね。

 一般性とか普遍性、純粋な美の追求とか、そういう観点は「塔」にはあまり無いのでしょうか。

 そういうことでは決してないんですけど、ある程度わかりやすい指針なんじゃないかなと思うんですよね。(売れることが至上なのかと問われて)

 色が出なくて、全体がフラットになる。力のある歌人がぽんぽんぽんと散在しているので、非常に読み物として面白くなくなる。まだ「未来」とかはそこそこ読めるんですよね。(『塔』の選者ランダム制について、『未来』の選者固定制と比較して)



 今回の座談会では安達さんが結社内の「反体制」のような役回りなので、その発言が結社外の人間の耳には心地よく響くのかもしれない。ともかくも、こういう人がいるというところに『塔』の活力を感じる。


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