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 斎藤史「歌集『シネマ』」が真っ先に引いているのは、次の歌である。
 

ポオリイのはじめてのてがみは夏のころ今日はあついわと書き出されあり

  『シネマ』



 この歌の初出は私は未見だが、おそらく1931(昭和6)年の『短歌作品』1巻3号。「ポオリイ」という西欧風の人名はアララギ式リアリズムへの軽いジャブにすぎない。それよりも当時、まだ珍しく衝撃的だっただろうと思われるのは、「今日はあついわ」という若い女性の話し言葉が短歌定型のなかに入り込み、見事に収まっていることだ。

 その話し言葉の内容にとくに重要な意味はない。ただ「暑中お見舞い」とも「盛夏の候」とも違う、その表現が女の風貌や気質——相手に初めて出す手紙なのに作法にこだわらないモダンガール——を想像させる。つまり、そういう言葉遣い自体に意味があるのだ。

 そのことに史は当然気付いたはずだ。『魚歌』には次のような歌がある。
 

飾られるシヨウ・ウインドウの花花はどうせ消えちやうパステルで描く



 こちらの初出は『短歌作品』2巻2号(1932年2月)。これ以前の史の歌に若者風の話し言葉が全然見られなかったわけではない。しかし、「どうせ消えちやう」といった言い回しを歌に取り込もうとしたとき、石川信雄の「今日はあついわ」は史にとって頼もしい味方であったことだろう。


(2014.8.14 記)

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