最新の頁   »   新芸術派(石川信雄・斎藤史・前川佐美雄)  »  石川信雄と斎藤史 その二
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 斎藤史の歌やエッセイの一つの特徴は、人への視線が厳しかったり、冷たかったりすることだと思う。移住先の農村の人々を題材にした歌、晩年の母を題材にした歌など、その典型だろう。

 ただし、例外もある。父と少数の友人に向ける視線は常に温かいのである。二・二六事件で刑死した栗原安秀は、もちろんこの友人のなかに入る。そして、私の見るところでは、石川信雄もそうだ。
 

手を振つてあの人もこの人もゆくものか我に追ひつけぬ黄なる軍列

  『魚歌』1940年



 「石川信雄氏を送る」という詞書の付いた一首。非常時の作とはいえ、敬愛の心は紛れもない。

 晩年の史を佐伯裕子がインタビューした際、話題が石川に及んだ。
 

佐伯——私が拝見したところによると、前川さんの系列で、モダニズムといっても、石川信雄さんのほうにつながるのと、斎藤史さんのほうに短歌の血筋が流れていくのと、ちょっと違う気がするんです。
斎藤——そう?
佐伯——私は石川信雄さんの歌はあまり好きになれないんですが、斎藤史さんの歌は好きなんです。なぜ違うのかというと、それは重大な事件の歌があったからとかではなくて、底のほうに前川さんがモダンと一緒に持ちあわせていた日本的なものを、斎藤史さんのほうが石川さんより多く継がれていったように思うんです。
斎藤——石川信雄というのは早稲田の英文なんです。だから、彼ももっと長生きをして歌をつくっていたら、どういうものになったかしら。歌がまだ若いところで終わっちゃっていますよね。本当の血というよりも。

  (斎藤史『ひたくれなゐに生きて』河出書房新社、1998年。)



 史は話し相手にうまく調子を合わせることのできる人だったようで、佐伯のインタビューに対しても概ねそのようにしている。だから、引用箇所のような応対はちょっと珍しい。石川の歌を「好きになれない」という佐伯に、史はついに同意しなかったのである。


(2014.7.9 記)

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コメント
51
「短歌往来」7月号の特集「伝説の歌集3」で、石川信雄の第2歌集『太白光』が取り上げられていました。先に『シネマ』の復刻版がながらみ書房から出たりと、再評価(?)の機運が高まっているようです。

以前、土屋文明の『韮菁集』の中国詠について調べた時に、同行した加藤楸邨の『沙漠の鶴』、石川信雄の『太白光』を参照したことがあります。

52
松村さん、レスポンスが遅れてごめんなさい。パソコンが本格的に不調なのです。。。
石川信雄再評価の機運というのはびっくり。ちょっと前までぜんぜん評価されていなかったでしょう?『シネマ』復刻版、知りませんでした。びっくり、びっっくり、いったいだれの企画なのでしょう??
松村さん、『韮菁集』論をどこかにお書きになったことがあるのですか? 

53
『シネマ』復刻版は、昨年4月に、ながらみ書房から出ていますね。「短歌往来」2013年9月号に黒瀬珂瀾さんが書評を書いています。また、同じ号に忍足ユミさんという研究者の方が「石川信雄の偉業―ジャン・コクトーに導かれて」という7ページの評論を書いています。

『韮菁集』論を書いたことはないのです。以前「塔」の「アララギ歌人研究 土屋文明」という連載で、「城東区」考、「鼠が関」考、「樋口作太郎君に報ず」考、「山中湖平野」考という各30枚くらいの文章を4回書いたことがあり、その後も自主的に書いて行こうと思って、調べたのです。それきりになっていますが。

54
またまた手紙なみの返事の遅さ・・・すみません。短歌往来は読んでいない号がほんと多くて、その号も未見です。黒瀬さんは研究者肌だから、昭和の歌集についての評論など、上手いでしょうね。忍足氏の名前は知りませんでした。国文学系の研究者でしょうか。ちょっと調べてみます。

松村さん、土屋文明についてずいぶん書いておられるんですね。30×4というのは本格的な分量ですね。「城東区」などとても好きな一連なので、ご論考をぜひ読んでみたい。お手数でなければ巻号をお教えください。


55
お返事が遅くなりました。「城東区」考(「塔」2010年4月号、5月号)、「鼠が関」考(2010年10月号、11月号)、「樋口作太郎君に報ず」考(2011年4月号、5月号)、「山中湖平野」考(2011年11月号、12月号)となっています。雑誌を探すのも大変でしょうから、メールで送ります。

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