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 エピラフさんのコメントによれば、晩年の笹原常与は「四行詩」を多く書いていた由である。『假泊港』(港の人、2002年)では、掉尾近くに「四行のダンス・デッサン」「紙飛行機」「影踏み」といった四行詩が収録されている。『假泊港』が制作順に詩を並べているとしたら、この三作は『假泊港』出版に比較的近い時期の作ということになる。同書出版を挟んで、四行詩制作への熱意が続いたものか。

踊る人に誘い出された踊りは
踊る人の肉体を下敷きにして
その上にひろげられた「生」の白いページに
精神のデッサンを 描いたり消したりしている。


  「四行のダンス・デッサン」より


 描くだけでなく「消したり」するのが味わい深いところ。より生き生きとした動きが、命が、そこに生まれている。


(2015.2.20 記)
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 笹原常与本人の書き入れがある本を古書店で見つけた、と教えられた。自分でも少し調べてみたところ、確かに笹原さんの旧蔵書などが古書店に出回っている。御家族が遺品を整理されたのだろう。

 しかし、書き入れ本まで処分されたというのは、やや心配な情報だ。原稿や草稿、ノート類は散逸していないだろうか。遺稿集の出版の話は順調に進んでいるのだろうか。

 昨年12月14日付と15日付で笹原さんに関する記事を書いたところ、未知の方々からコメントをいただいた。笹原常与に関する情報がウェブ上にほとんど存在しないことにあらためて気付くとともに、笹原常与詩集に熱心な読者がいることを再認識した。

 遺稿集の出版が実現することを願う。


(2015.2.12 記)

 嶋岡晨は、かつて笹原常与の詩について「レアレスト・ファンタスティック」と評した。なるほど、非合理的な風景を描きながら、この世の真実に確かに触れていると思わせるのは、『假泊港』のひとつの特徴である。否、優れた詩はすべてそういうものだろうか。
 

飛行機のかたちに 紙を折り畳んでゆく。
その時 風も一緒に折り畳む。
あまりに深く折り目をつけすぎて 青空の端まで折り畳んでしまう。
折り畳んだ風と青空をゆっくりほどいて 紙飛行機は飛んでゆく。


 (「紙飛行機」より)


影を踏んでいた子は 影に受け入れられて
そのまま 影の中からもどってこなかった。
それからというもの
影が その子をさがしている。


 (「影踏み」より)



 紙飛行機についての、影についての、世界についての認識が私の脳の中で更新される。そのことで、私自身もまた更新される。詩を読むとは、こういうことだろう。

 遺稿集をまとめる話があると里舘氏から聞いた。願わくば、『假泊港』の隣りに並べるのにふさわしい、美しい本を。


(2014.12.14 記)

 笹原常与さんが五年ほど前に亡くなっていたという。『やがて秋茄子に到る』批評会の会場で、港の人の里舘氏から教えられて驚いた。すぐにウェブ上で調べてみたが、何も分からなかった。こと日本文学に関するかぎり、一番知りたい情報はウェブ上に無い。

 三省堂版『現代詩大事典』(2008年)の「笹原常与」の項を担当したとき、経歴の一部が分からず、ご本人に手紙を出して問い合わせた。たいへん丁重なご返事を速達でいただいて恐縮した。筆跡、インク、封印……隅々まで上品な趣味の窺われるお手紙だった。

 強く印象に残っているのは、できるならば出身大学を記載しないでほしい、と書いてあったことだ。学歴社会に抗するというようなおおげさな思いを持っているわけではない——と断りつつ、理由を記していた。

 たかだか四年程度の大学生活がその者の成育史にいかほどの影響をもたらすのだろうか、その者の人となりはその者自身の実人生における主体的な生き方によってつちかわれる、それにもかかわらず終生学歴がついてまわる、そういった慣習をせめて私一個においては改めたい——。

 内容というよりその言葉、その表現自体に清潔な人柄がにじみ出ているようだった。笹原さんはさる有名大学の出身だが、私は結局その大学名を書かなかった。
 

しかし 時として 私は見ることがある。人々の心に沈黙が深まる時 おのづからにしてそこに現われる寂寥の海域 その水平線のあたりに 長い間行方を絶っていた寂寥の艦隊が姿を現わし 水面に船影を落としてしばし碇泊しているのを。



 港の人から2002年に出版された『假泊港』より、「寂寥の艦隊」の一節。歌人は助詞一つに至るまで神経を使うが、この詩人の言葉を吟味する態度たるや、それ以上である。

 笹原常与、私の心の中に棲み続ける詩人。そして、こんな言い方をすると堂園さんに悪いようだが、港の人が世に出した数多くの美しい本のなかでも、最も美しい本は『假泊港』にちがいない。


(2014.12.13 記)



笹原常与-1
(装飾を少なく抑えた本体表紙と箱。)

笹原常与-2
(頁の左隅に朱字の章題。)

笹原常与-3
(ノンブル表示が朱色なのが洒落ている。
 栞紐も同じ色。本文は頁の上半分に印刷。)


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Author:和爾猫
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